この一年の社会運動の成果を考える
9月は、生活クラブ北東京さんの「ピアふぇすた」という催しでお話しすることになった。ピアふぇすたには過去にも登壇させてもらっている。この組織・動員嫌いの時代、生活クラブさんに限らず、労働組合や青年会議所といった中間集団はどこも構成員がなかなか入って・続けてくれないことに悩んでいる。そういう中間集団の方々に対して、いかに中間集団が人々の助け合いや自治の基盤になっていて、組織内議員や協力議員などを通じて公助を求める場になっているかということをお伝えし、エンパワーメントするというのがこうした講演での自分の仕事だと思っている。
今回は昨年度に続き2回目の講演になるので、せっかくだからこの一年の活動の「効果検証」的なものにしたいというご相談をいただいた。確かに、いろいろな中間集団や企業に行って、社会を変える試みをしている人たちを励ますのはとてもやりがいがあるが、それに加えてより継続的に、組織に伴走してアドバイスするような仕事ももっとしたいと思ってお受けした。
ただ、講演をお受けする際になって改めて、社会運動の「効果・成果」ということについてあまり真面目に考えたことがなかったかも、とも思う。そこで今回は「ここ一年の日本の社会運動が起こした変化」という点から、こうした問いについてまとめてみたい。(定義的には、右派運動や排外主義運動も「社会運動」とされるが、私自身はいわゆる政治的にリベラルな立場にある運動を「社会運動」として研究・サポートしているため、後者による成果を主に列挙している。なお、学術的な分析ではなく、特に網羅的でもない。おそらく、地方自治体での条例制定や改正などを含めばもっと膨大な数があるだろう)
前置き:何を社会運動の「成果」とするかは難しい
社会運動の成果研究は「アウトカム研究」と呼ばれているが、この「アウトカム」は多くの場合、制度変革や政党への影響といった政治への影響(「社会運動の成果」というとき、これが一番イメージしやすいと思う)、個人のキャリアや意識変化といった個人への影響、また社会全体の価値観や規範への影響という文化的影響の三領域に整理する研究がよく引用されている印象がある。
ただ、そもそも社会運動がなかったら政策は変わらなかったのかという仮定を置いて比較分析することが難しく、また、特に政治アクターの側は自らの行動変容を社会運動の影響として表立っては認めないので因果関係を検討することも困難だ。個々の事例の置かれた社会的文脈がかなり異なるため、総じて一貫性のある知見を提示することが難しいという批判もある。ひとまず、以下では「政治への影響」と言えそうなものを中心に書いてみたが、学術的な検討の成果ではなく、今後の研究が待たれる。
法改正で不同意性交罪の認知件数が増大
2023年に刑法改正がなされ、強制性交罪と準強制性交罪を統合して名称が「不同意性交罪」に改められるなどの変化がみられた。これにより、警察庁の全国統計でも、2026年上半期の不同意性交事件は昨年同期から16.4%増えたそうだ(以下の記事)。なぜ増えたかというと、下の報道によると、改正の内容が多くの人に浸透し、認知件数が増えたということだそうだ。
全国で継続的に行われたフラワーデモと、一般社団法人SPRINGによるロビイング活動がこのたびの法改正(「不同意性交罪」への名称の変更など)に大きな影響を及ぼしているそうで、社会運動の成果だと言えそうだ。この件に関しては、一般社団法人SPRINGのメンバーでもある鎌田華乃子さん(慶應義塾大学)が国際会議で研究成果を報告されていて興味深かった。
カスタマーハラスメント対策の法制化
元々東京都などで条例化されていたカスタマーハラスメント関連の対策だが、労働施策総合推進法等の一部を改正する法律が国会で成立し、労働施策総合推進法にカスハラ対策が盛り込まれることになった。2026年10月1日から施行される。これはUAゼンセンの労働組合運動が端緒となっているが、これほどの短期間であることを考えるとものすごい成果だと思う。
日本に帰ってお店の窓口などを見ても、カスタマーハラスメントに関する注意書きがずいぶん増えたように思うし、先日空港からタクシーに乗った時も、「カスハラ条例ができたので、あまりにも態度が酷いお客さんにはきちんと制止することができるようになった」というお話を伺った。こういうお話を聞けると、社会運動の効果を感じて個人的には嬉しくなる(もちろん労働者本人が労働運動の成果だと思っているかはまた異なるが)。
杉並区長選挙における岸本聡子氏の再選
「社会運動の成果」というのとは異なるかもしれないが……。岸本氏はミュニシパリズムの実践者として知られており、今回の再選も、1期目の実績である学校給食費の無償化、パートナーシップ制度の制定、子どもの権利に関する条例の制定などを掲げ、「対話の区政」という政治のスタイルそのものへの支持が広がったことを示している。
上二つでは、社会運動による制度の変化やそれに伴う意識・行動変容を中心に書いてきたが、岸本氏の再選は「オルタナティブな地方自治のモデルそのものが有権者の信任を得た」という意味で、どちらかといえば自治という価値が根付いた(評価された?)結果なのかもしれないが、せっかくなので入れてみた。
全国150箇所以上の地域で行われた平和・反戦デモの広がり
これについては過去にもいくつかの記事ですでにその重要さを書いたので、あまり長く言及はしない。このデモの政治的影響について、自衛隊派遣に関しては初動での即断は避けられたが、情勢が落ち着いた後には派遣検討が再開されており、デモが政治を大きく動かしたとまでは言えないかもしれない。また、参加者数をとっても、日本のデモ参加率そのものを大きく引き上げるような数とは言い難い。しかし、これだけの同時多発的な運動が生じたということ、おそらくは新たに社会運動に参加した層も少なくないという点で「個人への影響」あるいは「文化的な影響」につながるものではあると思う。
社会運動の経験者がその後意識や生活のあり方を変容させたり、また異なる機会に社会運動に参加したりという変化自体は数多くの先行研究で認められている部分でもある。新規参加者の参加を促しているとしたら、それは単発の社会運動だけでなく、後続の活動にも影響を及ぼす。
最後に、こうした「成果」について言及すると、社会運動をやっていない人だけでなくやっている人からも「それは成果ではない、細かいことを成果として数えすぎ」「まだまだ社会や政治に変えるべき点はたくさんある」と言われてしまうことがある(かつ、それ自体がアクティビストによくみられる言動だとして研究もされている)。
しかし、政治や社会を変わらないものと見なしすぎて、自分たちの無力さの側を強調しすぎても、燃え尽きてしまうし疲れてしまう。もし社会運動や社会貢献を続けていて、疲れてしまったり燃え尽きそうだという人がいれば、ぜひ自分がやった活動の「効果」について、政治への影響、個人への影響、文化的影響といった点から検討してみてほしい。
政策も、人々の意識も確かに変わっているし、そこには社会運動が変えた部分も多くある。だから、それをデータや事例として提示することで、活動している人をエンパワーメントすることが私(研究者)の仕事の一つなのかなと思いつつ、日々講演やレクチャーをさせてもらっている。
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